大人の外国語学習で大切な2つのこと

外国語は小さい頃から、と思う多くの親御さんがお子さんを英会話教室に通わせます。ところが人生に想定外はつきもの。
「急に中国と取引することになった…。」
「インドネシアに単身赴任することになった…。」
ビジネスと医療の用事は英語が国際標準語とはいえ、心ほぐれるのは地元のことば。だって人は言葉に全身で関わるもの。ふるさとの言葉は骨身に深くしみこんでいます。遠くからやってきた友人が自分のふるさとの言葉を少しでも話してくれると、なんともいえず嬉しいもの。
大人が外国語を身につけるのに大切な2つのポイントをフランスの耳鼻咽喉外科医、アルフレッド・トマティス博士が指摘しています。1つはおなじみの「まずその言語の耳をつくれ」。もう1つが意外にも「文系」的で、言われてみればごもっともで興味深かったのでご紹介します。出典は博士の初めのころの著書「L’oreille et le Langage」(耳と言語)です。
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アルフレッド・トマティス博士。その目には何が映っていたのか…
ちなみにトマティス博士が開発した聴覚発声メソッドは、ノーマン・ドイジ博士の近著The Brain’s Way of Healing「脳はいかに治癒をもたらすか」でも丁寧に紹介されています。
(トマティス博士の著書はほとんど英語、日本語に訳されていません。もともとの情報を知るには日本の関係者を訪ねるか、フランス語で検索するのがコツです。)

まず耳をつくれ

“En tout cas, il n’est pas à douter qu’une langue étrangère voit son intégration se faire par l’oreille. Cette acquisition aidée par le texte et l’image n’en est pas moins essentielle et primordiale. C’est en l’entendant que l’on apprend une langue; et en l’entendant correctement?
Que veut dire entendre ou l’entendant correctement?”
「どんな場合でも、外国語をものにするには耳が決めてであることは疑う余地がない。たとえテキストや画像という補助があるとしても、聴覚での学びが原点だ。言語は聴くこと、それも正しく聴くことを通して身につくのだ。はたして、正しく聴くとはどういうことだろう?」
私たちは胎内にいるときから背骨に響く母親の声を聴き、母語のテンポやビートといった音楽的土台になじみます。生まれてからはその言語がそれぞれの環境にあわせて選び取った音の分布(地域言語ごとの優先周波数帯)に耳をなじませます。これを母語への言語コーディングと言います。
“Cette limitation, qui est presque la règle, ne nous a rendus, maîtres à manier, avec toute la finesse; toute l’agilité désirée, qu’une gamme sonore et rythmique propre à une language.”
「この実際には規則ともいえる限界(訳注=コーディング)があればこそ、音とリズムのモードのパターンを1つだけ然るべき巧みさと速さでマスターすることも可能だ。そのモードは言語ごとに独特だ。」
“Mais quel monde acoustique différent que celui d’une autre langue! C’est un conditionnement tout autre qu’il faut subir. Sans lui; l’intelligibilité nous rend inertes devant toute tentative d’émission articulée que l’on sait ne pas pouvoir contrôler correctement.”
「別の言語の音響世界はどれほど異なっていることか!
新たにまるごとコンディショニングを確立しなくては。
それ抜きになにを外に表現しようと試みてもうまくゆかず、コントロールできていないと思い知ることになる。」
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はじめて外国語を耳にしたときに単語の切れ目がわからないのは、おのずと母語の言語コーディングを通して聴くしか方法がないからです。外国語をコーディングするには何より自然な発話を聴くことです。教材用にわざとらしい録音になっているもの、聴きやすいようにゆっくり読み上げてあるものは避けましょう。自然が一番です。検定外教科書Progress in Englishシリーズを応援してくださった脳神経外科の植村研一先生も3か月以内に100時間聴くことをすすめておられます。そうすれば外国語の回路ができ、日本語と混線しなくなるからです。

そして、ひとりになれ

トマティス博士2つめのアドバイスは「大人は一人になれ」。

英語の授業で先生がお手本のCDを再生する場面をよく目にします。ところがクラス単位のペースでは自分が何をやっているのかどうでもよくなるもの。リスニングもシャドウイングも精度がいまひとつ。しかも人前で口を開くと人目が気になるもの。

耳ができて、今度は口の練習となったらあくまで一人が基本です。ひとりになって、自分と向き合わねばどうにもならないのです。

“Cette technique offre des avantage certains. Le caractère individual du procédé y contribue largement.
Chacun, en effet, dispose de sa machine suivant son bon vouloir, dans une progression répétée; perfectionnée; sans intervention extérieure, sans les oreilles juges du maître. Cette libération est un facteur éminemment favorable à l’éclosion du départ.”
「この手法(訳注=自分ひとりのペースで学ぶ)には確かな利点があり、プロセスの個別化は学びの成功に大いに寄与する。学び手は自分専用の機材を自分の進歩に合わせて使えるので、好き放題繰り返すこともできる。外からの介入や先生の裁きの耳にさらされることもない。進歩するためには始めから自由が極めて大切な要素なのだ。」
“Notre inhibition devant toute langue étrangère s’augmente d’autant plus que la crainte du ridicule…”
「外国語を学ぶ際に『馬鹿にされたくない』とわけもなく恐れると、ますます自分を抑圧するばかりだ。」
“Elle se trouve accrue par le fait que les inhibitions chez lui sont plus grandes; sa position sociale le bloque; sa peur du ridicule le soustrait à ce jeu de construction linguistique. L’habitude qu’il a d’évoquer à tout moment son intelligence pour comprendre ne lui rend aucun service; au contraire, elle intervient sur ce circuit, sur ce rail à créer et, plutôt que de l’aider, elle en entrave l’éclosion.”
「ますます(学びが)脆くなるのは、大人になるほど抑圧が強くなるからだ。社会的地位を気にしたり嘲笑を恐れたりするばかりに言語構築ゲームを楽しむことから自分を引き離している。年がら年じゅう知性を引っ張り出して理解しようという癖もなんの役にも立たない。その逆で、知性はそこに敷設されるべき回路、走路の役に立つどころか邪魔だ。」
ひとりになって、知性のスイッチを切って、ひたすら自分の音に向き合う…人目から隠れて幼子に還るようです。
ぜひお手本の音源とリピートや録音ができる機器を使うのをお勧めします。スマホの録音、録画機能でもいいですね。
ひとりになる?そんな時間ない?だからスクールに通っている?
そりゃいいカモだわね。
トマティス博士の言葉を裏返しにしてちょっと厳しいことを言わせていただきます。「まずよく聴いて耳を作り、次にひとりになって自分の音に向き合う覚悟がなければ外国語習得は難しい。」
イチローだって素振りするのです。
外国語はプロ野球よりよほど敷居が低い。理に適った方向で努力すれば必ず道が開けます。
私は今、どうしても必要なのでフランス語・ドイツ語を独学しています。臨界期?学ばない言い訳に興味はありませんね。私には関係ないと思っていますし、そんなこと言っている場合ではないのでね。
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