アメリカ大統領選、演説の原点ー”people”のジレンマ

アメリカ大統領選、今年は嫌われ者どうしの罵り合いで少々興ざめです。

これまでは大統領候補者の演説、テレビ討論会ともなれば、通訳学校の先生も腕の見せどころ、と張り切って授業で取り上げたものなのに…

そこで通訳道場 横浜CATでは誰もが知っている、知らなければ恥ずかしい原点に戻っています。

つまり…リンカーン大統領のゲティスバーグ演説。この演説は南北戦争の最中に国立墓地封建に際してなされたもの。あの有名な「人民の、人民による、人民のための」が含まれています。

 

 

この演説、検定外教科書、Progress in English 21のBook5、高2向けにちゃんと載っています。

プログレスbook5で高2のとき出会った演説。クラシックってこういうこと。
プログレスbook5で高2のとき出会った演説。クラシックってこういうこと。

さて、通訳道場ですから読んでいるだけではありません。当然全部暗誦、リンカーン役を交代しながら互いに通訳です。 (演説はこちら)

これ、読めば読むほどうなってしまいます。

とにかくリンカーンの視野が大きい。

自分たちは人類史上どうしても必要なことをしているんだ、自由に立脚する民主主義国家が存在しうるかどうか試しているんだ、てなことをおっしゃいます。(we are engaged in a great civil war, testing whether that nation, or any nation so conceived and dedicated can long endure.)

だから北軍、南軍、アメリカ、なんていうローカルな喧嘩を思わせる固有名詞は一つも出てこない。

この演説を一度聞いて「すごい」と感動できた聴衆も偉い。言葉選び、レトリックも凝っています。

トランプさんは文法レベル小6以下、ヒラリーさんは中1程度だそうで…TV,大衆化、という事情を考えても、どうも別世界です。

さて、終盤。

…that we here highly resolve
that these dead shall not have died in vain;
that this nation under God, shall have a new birth of freedom;
「つまり、私たちがここでしかと心に決めることです。
この方たちの死は犬死になどにならないことを。
この国が神のもとに、新たなる自由の誕生を見ることを」

shallは神の意志により成ることを表します。最近あまり聞かないわけで。willは神以外の主体です。主語やら状況やら。)

暗誦するとフィナーレの直前で熱い思いがこみあげます。そしていよいよ…

and that government of the people, by the people, for the people
shall not perish from the earth.

ここでpeopleを「人民」と訳すことに私は一抹の違和感を引きずっています。
たしかにpeople’s republicなんて国は日本海の向こうの大陸、半島にもあります。
人民共和国です。実態はどうであれ。 

皆さん、「民」という字の由来をご存知ですか。

草の根の、手塩にかけた暮らしを大切にするイメージがありますよね。

でも、もともとこの字は片目を針で刺して、奴隷として
臣、官のもとで働かされる自由と縁遠い人々を表しています。 

民は片目をつぶした奴隷。
民は片目をつぶした奴隷。漢字の音符さんより

一方、peopleはもとより、元であるラテン語のpopulusにはそのような
ニュアンスはありません。

 よく思うのですよ。日本人は政府をいまだ幕府と思っていると。

英和辞典でgovernmentなんてひくと「お上」なんて出てきます。 

水平移動のように遠い外国の文言を日本語にとりいれるとき、
垂直に伝わってきた日本の言葉がぴったり合わないこともあるんです。

通翻訳のプロにはセンチネルの緊張感が必要。

空間、時間を超えて言葉を見つけなければ。創らねば。

昨日買ったばかりの辞書の少なくとも百年前と百年後を思いましょう。 

 

 

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