通訳者の仕事が加齢で劣化しないコツ

えっ!ビックリ。そんなこと考えたこともない。「通訳さんも年とともに仕事がつらそうで。」声の主はメディア関係の30代の男性。「私のこと?」「いえいえ!」

なんでもベテランの通訳さんを手配したものの、安心して任せることができなかったそう。何が気になったのでしょう?記憶力?理解力?訳語の選択?発声?持続時間?いろいろ聞いてみても首をひねるばかり。ああ、こんな専門的な訊き方をした私が悪い。どんな感じだったか話してもらいました。

「なんだか、よくわからないんですよ。たぶん、訳としては正しいのだけれど、伝わってこないんですよ。」

あ、わかった。

この青年、「劣化した」ベテランさんとのおつきあいはここ2年とのこと。ということは、彼女が30代の頃どんな仕事をしていたかは知る由もありません。だってまだ幼稚園生のはず。

もしかしたら、劣化、と言ってくれた彼の方が優しいかもしれません。

私はちょっと厳しいことを言います。でも、その方がこの先が明るいんです。

このベテランさん、はじめからその調子だったのだと思います。

ちょっと五線譜と演奏のたとえを使ってみます。

こりゃ老眼には厳しい…

昔は五線譜を読める人が珍しかった。だからおたじゃまくしの通りに歌えるだけで、周りはおーっとびっくりしてくれた。誰も曲想どころじゃなかった。

でもそのおたまじゃくし出力は作曲家の頭の中にあった音楽とは違いますよね。音楽の骸骨くらいかもしれないけれど。

英語も昔はそんな感じだったのでしょう。daisyが雛菊と化けるだけでおおーっと感心された。

でもね、今は「音楽表現、演奏」が求められているのです。「雛菊」といっても誰がどんな思いをこめて見ている雛菊なのか伝わって当たり前なのです。しょぼい安物の花なのか、ワーズワースが見ていた、けなげな努力を頑固に続ける花なのか。

時代が進んで、英語を使う人が増えたので仕事が高度になったわけではありません。

本来の姿が現れるだけのこと。

劣化ではなく、本来の姿に到達していないだけです。

本来、言語表現にも音楽と同じようにクレッシェンドやらスフォルツァンドやらスタッカートやら…いろいろな音楽記号がついています。

それを切り捨てておたまじゃくしだけ鳴らして良しとする権利は通訳者にはありません。音楽の世界では許されないことが、通訳の世界では許されるなんてことはありません。言語は音楽です。

じゃあどうしたら?という皆さん。老若にかかわらずおすすめがあります。

感情(曲想、音楽記号)をたっぷり含む英語映画、ドラマをよく聴いてインプット、シャドウイング、アテレコでアウトプットしてみましょう。

そして、日本語も磨くことです。標準語ならNHKの森田美由紀さん(チコちゃんのあのブラックなナレーション。20年前から彼女は通訳学校でも称賛されていました)。できれば振れ幅の広い話芸に耳をならしてください。なんといってもおすすめは落語です。

通訳道場では「外郎売の口上」まる暗誦が必須です。全員、クリアーしています。寿限無も加えようかしら。→【通訳道場★横浜CATS第5期】

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