通訳が「うまい」とほめられないのは…

「うーん、うまく通訳できたと思うのにクライアントの反応がいまいち。また頼んでくれるかな…。」

通訳者はリピートと紹介が大切。だから依頼主の反応は気になる。
でもね、うまい、と言われているうちは普通なのよ。
うまい、を超えて自然になると何も言われなくなるんじゃないかと思う。

そんなこと心配してないで寄席にいってごらん。

通訳は話芸。伝統の話芸に触れるのも立派な修業。
しかも笑えるんだからありがたい。

ことに落語には日常のモノサシを吹っ飛ばしてくれる
とんでもない人たちがゾロゾロ。

自分の頭の枠をこわすのにぴったり。

昨日のトリは古今亭菊丸師匠の「中村仲蔵」。

本当にすごいと「うまい」も「すごい」も言われない、というお手本。

安藤広重「仮名手本忠臣蔵」

昔は役者の階級も細かく分かれていて、昇進も厳しく抑えられていたそう。
にもかかわらず、中村仲蔵は底辺の「稲荷町」から「名題」に大出世。

ところが仮名手本忠臣蔵ではひとつしか役が与えられず、それも
弁当食べながらの5幕、元サムライのしょぼい山賊、定九郎。
ドテラのような衣裳でやぼったい役と相場が決まっていました。

引き受けたものの、もちろん不本意。

ある日蕎麦屋で水もしたたるイイ男の浪人に出会います。
その風情こそ本来の定九郎!と着物、帯、傘…細かく訊ね
徹底的にパクりました。

さて上演したところ…あまりの凄みと美しさに観衆は
言葉にならないうなり声をあげるのが精いっぱい。
「○○屋~」なんて呼ぶ者はおりません。

これを当の仲蔵は大失敗と信じ込み、江戸を離れ
上方に向かいます。

実は町では前代未聞の演出が大評判。
座長が行方不明の仲蔵を探していました。

見つけ出された仲蔵はこれを聞いて仰天…

だからいいのです、毎回褒められなくて。
褒められるために通訳しているのではないでしょう。
もちろん、下手なのは話にならないけど。

そうそう、昨日は我が母校、国際基督教大学が
漫才のネタになるという想定外の笑いもありました。

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