通訳養成の参考にするはずが、「横浜にぎわい寄席」でやらかしました。
前座から真打まで落語を聞いているとき、私は笑っていても結構まじめなんです。通訳のルーブリックを考えたりしているから。
でも、色物(落語と落語の間に入る漫談、奇術などの芸)の時間って気が緩むんだなあ。
この日の寄席を選んだのは色物が紙切りの林家楽一師匠だったから。驚きの芸を何度も拝見していて、そりゃもう楽しみでした。 振り返ってみれば、私ははじめからただおとなしく眺めて帰って来るつもりではなかったような気もします…。
楽一師匠がごあいさつと同時に一枚切り終えると、それを見て観衆が歓声を挙げました。「さあ、ご要望に応えてお切りします」と師匠。
「ベイブリッジ」と男性の声。おおー、横浜らしいね、という客席の空気。すぐにベイブリッジと、それを横浜港から眺める着物姿の二人が現れました。おおー、とまた歓声。師匠はにっこり。
「さ、ご要望をどうぞ。さあ。」
「エンジェル」「大黒さま」
気がついたら私の声。「トランプ大統領と金正恩委員長。」
私の声はよく通ります。通訳でも発声をトレーニングしていますから。ふつうのおじさんおばさんの声とはだいぶ違う響き方をするんです。
その声で「トランプ大統領と金正恩委員長。」
一瞬、客席はシーンとして、すぐにワハハ、クスクス。
師匠は「じゃ、エンジェルいきましょうかね。」え…。しばらくするとエンジェルはいつもどおりの大成功。あら…次は…トランプさんは…だめなのかしら。
「次。えっと、なんでしたっけ?トランプさんと…?あ、金正恩さんね。」
やった!
そして現れたのがこちら。素晴らしい!ベトナムでの第2回会談の様子だそう。手をとりながらもテーブルの下では足を蹴り合っているところ。
![](https://kabukiyukiko.com/wp-content/uploads/2019/06/FCB60F85-A861-495E-AE35-C5982A6801BF-1024x768.jpeg)
「責任取って持って帰ってください」と師匠に言われましたが、もちろん、喜んでいただきました。
なんだか、あの二人も紙切りにかかるとこんなにかわいくなるんですね。
このあとは大黒さん。
ふと、師匠のものごとの並べ方の絶妙さに興味をもちました。エンジェルを切りながら、この2人を段取りつけていたのかしら…エンジェル、トランプさん&金正恩さん、大黒さまっていう順番は絶妙です。エンジェルは「トランプさんはどうするんだろう」とドキドキして待つ時間としてちょうどよく、最後が大黒さまだとホッとする。
複数のリクエストが聴こえた瞬間に最適な順番も探っておいでなのでしょう。
プロにチャレンジするとはっとさせれられます。これを励みに、私はダジャレの通訳に精進することを誓います。