ベテラン通訳者が頭打ちを乗り越えるには
S子さんはベテランの英日通訳者さん。ドイツ語も1級ですから、私も大いに見習わなくては、と思っています。さぞヨーロッパ関係のお仕事でご活躍のことでしょう…と思ったら。
忙しい、は忙しいのだそうです。何に忙しいのかと聞いてみれば、事前準備に忙しいとか。大いに結構。プロ通訳者の仕事の8割は事前の準備と信頼関係づくり。そこがアマとの違いですから…え、そうじゃない?
なんでも、まるで違う分野の新規クライアントの勉強に追われているのだそう。
それってつまり…リピートが少ないということ?
それはつらい。お悩みはそれだったのですね。
常連さんがついてこそ、同じ時間をかけた準備でも深く細やかなものになる。その分野の定訳を積み重ねられるようになる。これって通訳が終わっても続く貢献。
なぜマジメそのものものS子さんにリピートがつかないのかしら…
S子さんの通訳録音を聴いて10秒で突破口が見えました。
英語もドイツ語も100%聞いて分かる。でもそれを訳した日本語は「しかしながら」「-というもの、でしょうか」といった通訳独特の変な言い回しが多く、呼吸は浅く、喉声でした。違う人物を訳しても口調は1種類。
クライアントはそれにずっと耳を澄ませなくてはなりません。これは疲れる。その結果、 リピートにつながらない。
S子さん、日本語の語り手としてのトレーニングが足りなかったのです。足りない、というより要素として意識していなかったのです。
S子さんはご実家も洋風好みでお父様は海外駐在も永く、小さい頃からお家には海外からのお客さまも多かったとか。小さい頃から英会話教室に通い、大学はドイツ語専攻。すてきなお嬢様だったようですが…生活習慣も価値観も西洋寄り。
自分の日常生活を超える、プロの、芸としての日本語をまだ仕込んでいなかったのです。
でも、日本のクライアントが通訳者から受け取るのは日本語がメインです。大いに磨くべきでしょう。
日本は話芸の宝庫です。私は通訳者のみなさんに落語に行くようおすすめします。ひとりで沢山の声を持ち、多くの人物を演じる落語家から学ぶことは大いにあります。また、見習い、前座、二つ目、真打の違いを耳で感じる機会でもあります。自分の通訳がちゃんと真打レベルをキープしているか確認もします。
通訳者の方向けの個別レベルアップコンサルティング、始めます。