讃美歌「ああベツレヘムよ」にビックリ!

こんにちは。通訳藝術道場の冠木友紀子です。

もうすぐクリスマス。

いつも不思議に思うのは、クリスマスの讃美歌は、ほかの讃美歌よりずっと「入ってくる」「しみこんでくる」こと。それだけ作詩、作曲者も工夫を凝らしたのでしょうね。

讃美歌といえば、古文のような美しい日本語も魅力。

でもこのごろ気になるんです。

初めての日本語訳讃美歌がどれほど仏教や神道から借り物をしているのか。新しい訳の讃美歌に、ポジティブ志向、反知性主義、二項対立の色がしのびこんでいるのか。

こちらも初めて聞いてから40年余り。うっとり歌っておりました…。

ああベツレヘムよ	
などかひとり
星のみ匂いて	
ふかく眠る
知らずや、今宵	
くらき空に
とこよのひかりの	
照りわたるを
(讃美歌115番)

ん?

もとの英語歌詞と比べると、思いがけないところが違うのです。

O Little Town of Bethlehem

O little town of Bethlehem 
how still we see thee lie!
Above thy deep and dreamless sleep 
The silent stars go by.
Yet in thy dark streets shineth
The everlasting Light;
The hopes and fears of all the years
Are met in thee tonight.

(Lyrics:Philips Brooks Tune:Lewis H. Redner 1868) 

英語歌詞は、1868年、アメリカの教会学校の子どもたちのために書かれました。その内容は決して子どもだましではありません。

夜は身じろぎもしないような小さな町、ベツレヘム。
その上を天の星々は静かに過ぎゆきます。

ところが、暗い路地に今宵輝き始めた星は、地上を離れません。
この星のもとに人々が集うと、心のうちののぞみとおそれが和解する、というのです。このまぶしい星の光に、のぞみとおそれを分け隔てる心の内の壁(分別の愚)も消え去るようです。

ところが、日本語の美しい古い訳は、輝く星は天に現れたことになっています。

そして、英日の音声の特質上、「のぞみとおそれ」のくだりは入っていません。

さあ、新しい訳になると…

ああベツレヘムよ、
小さな町まち。
静かな夜空に 
またたく星。
恐に満ちた 
闇のなかに
希望の光は 
今日かがやく。
(讃美歌21より)

光が闇をやっつけた風ではありませんか?

確かに、闇は光に勝たない、というくだりが新約聖書にもありますが、やや単純な二項対立はどうもおだやかではありません。

それに、もとの英語歌詞のニュアンスとだいぶ違うのです。

訳詞ではなく翻案なのかもしれません。

いずれにせよ、あるひとつのメロディーとともに歩んだことばの経過をたどると、思わぬ発見があるものです。

なんだか、気持ちよく歌っている場合ではなくなってしまいます…。

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