オバマ大統領広島演説⑤-係り結びを活かす

日本語は最後まで聞かないと否定文か肯定文かわからない、と聞いたことはありませんか。

そんな馬鹿なことありません。

人間の言語はよりよいコミュニケーションを願って洗練され続けています。

よりよいコミュニケーションの鍵は「聴き手、読み手の予測を容易にすること」。できるだけ長く先まで、できるだけ精確に予測できるようにする。すると、コミュニケーションそのものに調和、穏やかさが生まれます。たとえ意見が対立していて討議が必要だとしても、です。

日本語は、声調、係り結びなど否定・肯定のいずれかを予測させる要素を豊かに備えています。

【冠木同通】

Every great religion promises a pathway to love and peace and righteousness. And yet no religion has been spared from believers who have claimed their faith has ①a license to kill.

Nations arise telling a story that binds people together in sacrifice and cooperation, allowing for remarkable feats, but those same stories have so often been used to oppress and dehumanize those who are different. Science allows us to communicate across the seas, fly above the clouds, to cure disease and understand the cosmos. But those same discoveries ②can be turned into ever more efficient killing machines.

①a license to kill
007を思い出しますね。強烈なキーフレーズが文末で残響します。なるべくこのフレーズを日本語でも文末に響かせたいもの。

②「しかし同じ発見は、より効率的な殺人鬼界へと変えうる。」(東京新聞)
「しかし一方で、そうした発見はより効率的な殺人マシンへと変貌しうるのです。」(ハフポスト)
→「しかし、そうした発見は転じてより効率的な殺しのマシンとなりうるのです。」

東京新聞さんは主述が?です。全体的に英文和訳調のハフポストさん、ここは「一方で」を入れてみたのですね。(翻訳全般としては東京新聞さんのほうが語彙もレトリックも豊かですが、ここはあと一歩。)

ここではcan be turnedを「転じて~うる」としてみました。英語の述語部分を係り結びの「係り」にすると、最後まで述語が出てこない英文和訳調のじれったさ(予測しにくさ)を軽減できるのではないでしょうか。英語の動詞を日本語の動詞、主語に「は」「が」をつけたところで翻訳したことにはならないのですよ。

欲を言えば受動態であることで発見そのものが主体となってではなく、あくまでも人為で、ということを表現したいものですが。このへんで一息、お茶を濁してミルクティーでもいただきます。

今週もそれぞれの持ち場でよい働きができますように。

皆さまの疑問が私の宝です。ご遠慮なくお寄せください。
例)なぜ西洋言語は大文字と小文字があるのですか?
こちらからどうぞ。

 

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