プロ通訳者はグーグル翻訳をこう使う
「え、プロが機械翻訳なんか?」
ええ、そうです。私は案件によってグーグル翻訳と自分の人力翻訳のバランスを変えています。
プロの通訳者、翻訳者の願いは、クライアントを言語の壁から自由にし、期待を超える驚きと喜びを提供すること。人力翻訳はそのツールの1つに過ぎません。
どうしても自分で翻訳したいならそれは趣味。
それに今は機械翻訳とはいいません。よく自動翻訳と言いますが、ITに詳しい知人によると「ニューラル翻訳」と言った方が適切なようです。人間の文字言語を扱う神経プロセスを模した仕組みになっているということです。それだけ仕上がりも人間に近づいています。
さて、どう按配しているかというと…チェックポイントは2つ。その件に類似した言語データはどのくらいあるか。原文はどのくらい整理されているか。
大ざっぱな図にしてみました。これに私の最近の仕事をあてはめてみます。作業の割合は時間を指しています。
①データが多く、文も整理されている
米国教育省の研究者やJCI(医療機関認証団体)のCEOのプレゼン資料英日翻訳はまさにこれ。通訳を頼まれていたのですが、事前にスライドを入手。翻訳をおまけで事前につけました。通訳さんは翻訳をやらない、翻訳を頼んだら高い、と思い込んで「英語ができる」スタッフが頼まれるところでした。これは拷問です。拷問が始まるところで完成品が飛び込んできたので喜ばれました。
仕事の按配はグーグル翻訳8割+事後チェック2割。たとえば50枚のスライドがグーグルなら数分。これを1時間かけて事後チェック。はじめから人力なら1日かかったかもしれません。楽だから、通訳のついでなら無料サービスとして提供できます。翻訳単体でもお安く受けられます。
論文もここでしょうね。
残念ながら日英でこれにあてはまるケースはあまりないなあ。
②データが多く、文が未整理
おそらく厚労省サイトの日英翻訳はこれにあたるのでしょうね。
原文整理3割+グーグル4割+事後チェック3割くらいの按配。意外と原文整理が面白いんですよ。でも仕事としてはあまりないケースです。
③データは少ないが、文は整理されている
新しい分野でのビジネがここにあてはまります。トマティス聴覚発声メソッド、シュタイナー医学、バイオマスなど、どれもヨーロッパに縁が深いのも面白いことです。単語単位では従来の医学やエネルギーと同じですが、視点、コンセプトが違うので注意が必要です。原文整理2割+グーグル5割+事後チェック3割といったところでしょうか。仕上げが楽しみな仕事です。
あ、そうだ。例外的に全部人力の場合もありました。海外の研究者の方の研究歴英日翻訳です。これはもとの文がもう文学的、詩的でした。ご本人も私が人力翻訳することを望まれました。
④データも少なく、文も整理されていない
③と分野としては重なります。ただ③がビジネスメール、プレゼン資料が多いのに対して、④は出版物が多くなります。
海外編集事情はよく知らないのですが、海外では日本ほど文章の編集をきちんと行わないようです。「馬から落馬して落っこちた」のような英文は本にこそざらにあります。今私が翻訳を仕上げている発達関係のイギリスの本がまさにこれ。はじめから人力でがんばっています。がんばるのは、著者と親交があって、声が聞こえてくるから。どうしても日本に紹介したいから。
なぜグーグルにしない?グーグルに入れるための編集をしている時間がもったいないからです。
この場合、頭の中で英文編集3割+人力翻訳4割+音声確認3割。
音声確認は、訳文を音読、録音、自分で聞いて確認することです。
言語はもともと音声。文字はあとから出てきたもの。どこを飛ばされても、どこをじっくり読まれてもよいように最善をつくします。
④は作業効率は低く、収入源にはなりませんが、一番新しい挑戦だろうと思っています。
おあとがよろしいようで。
持続可能な医療・農業・教育のための通訳者 冠木友紀子のプロフィール