同時通訳は神業じゃない?!
「同時通訳って大変でしょ。語順が違うのに大変よね。神業だわ。」
ニヤリ。そういうことにしておきましょう。
実は、私にはそんなことないのです。何も私だけが特別なことをしているわけでも特別なセンスがあるわけでもありません。
ただ、シンプルな原則を尊重しているだけです。
「ひとは思いついた順に声に出す。声は時に逆らわない。」
たったこれだけのこと。
だって…「さきに浮かんだイメージを取っておいて、あとから浮かんだイメージを先に言って最後に先に思いついたイメージを付け足す」なんて読むだけでも面倒なこと、とっさにしていると思います?
私には無理。
イギリスに伝わるとあるお話のはじまりで試してみましょう。仮にイメージごとに番号を振ります。
There was once a ①farmer ②on his way to ③sell his horse ④at Cambridge market. He ⑤had risen early and set out ⑥when the flat fields were till clagged with cold mist. But as he ⑦climbed the road ⑧where it ran steep ⑨over the hill at Grantchester, ⑩the sun rose too, ⑪broadening the day.
【ひっくり返し訳例】むかしむかし、農夫がケンブリッジに市が立つ日に雌馬を売りに行きました。農夫は、まだ夜明け前の朝霧が平原をしっかり包み込んでいるうちに家を出ましたが、グランチェスターを過ぎ、丘へ向かって坂道を上るころには、太陽も登り夜が明けました。
これでは①④③②⑥⑤⑨⑦⑩⑪。原文が特に強調しているわけではない「夜明け前」と「日の出の後」の対比を強調しているようにも聞こえます。
これでも中高の英文和訳ならマルが貰えてしまう。
それが悪循環の始まり。
翻訳だってこんなもんだろうと思ってしまう。読みにくい訳文が世の中にあふれる。世間も翻訳はそんなもんだ、仕方ないと思い込む。残念!
【なるべく順番通り訳例】むかし、とある農夫が雌馬を売ろうと向かっていたのはケンブリッジの市。早起きして家を出たとき、平原はまだしっかりと冷たいもやに包み込まれていました。けれどのぼり坂が急になりグランチェスターの丘を越えるころ、日が昇り、朝の光が広がったのです。
こちらは①③②④⑤⑥⑦⑧⑨⑩⑪ 時間の流れのとおりです。書き言葉っぽさが残っていますが、落語調にしたらもっと流れのとおりでしょう。
人間はイメージが浮かんだ順に声にする。イメージの順そのものに意味がある。イメージの順を変えるとストーリーが変わる。
ひっくり返し訳を手放せないとしても、そこで終らないでほしい。次はイメージの順訳にチャレンジ、そしてもとの英語に戻ってほしい。そうでないと日本語で別物を理解して終わったことになる。
さて、次のセミナーでは中高生の学習から通訳養成を一本化するヒントをお話しします。「日本の英語教育はおかしな袋小路が多すぎる。もう時間とお金を無駄にせず、しっかり学んで、人の役に立ちたい。」そう願うみなさんをお待ちしています。