留学帰りの専門家が翻訳で躓かないための2つのコツ
「留学して専門分野を学んできた。最先端の内容がわかっているのは自分だ。
ぜひ翻訳もして日本で広めたい。」
そう思うのはごもっとも。
ところが、読書会を開いたところ参加者の表情がいまひとつ…単語単位での言い換えが提案されガッカリ、ということはありませんか?、
決してあなたの専門分野理解に問題があったわけではありません。
単純なことです。専門分野での実力と、翻訳能力は別の話です。専門分野をよく知っているからと言って、翻訳ができるというわけではないのです。
自己流で翻訳しようとすると、実は自己流ではなく「古い学校流」に
しばられたままになりかねません。
「古い学校流」の英文和訳は「規範文法」に基づいて「書き言葉」をよしとしていたはずです。
「規範文法」とは言語の表現にはよしとされる規範が決まっていて、これにのっとって表現すべし、とする文法です。
ヨーロッパではラテン文法が長い事規範文法とされ、各国の言語の文法もラテン語の枠にはめられてきました。このせいでラテン語はわけわからん、文法は難しい、という誤解を招くことになりました。
日本の外国語教育でも規範文法的に書かれたテキストが普通だったので、規範文法を学校文法と呼ぶこともあります。規範文法の感覚でI love you.を訳すと「私はあなたを愛しています」となります。(こんなふうに日本語でコクられた人、いるんですかね。「あっそう、勝手にすれば」と答えたくなりますけど。)
この感覚で専門分野を訳そうとしていませんか?知らないうちに規範文法に縛られていたのではありませんか?
新たに意識してほしいのは記述文法と生成文法ですが、その詳細の代わりにすぐに心がけてほしいことを2つご紹介します。
①言葉は「ためしてガッテン」。
NHKのクイズ番組、ためしてガッテンでは「テーマ提示→問題→回答」とすすみます。言語表現もこれと似ています。
I 俺なんだけどさ
love 好きなんだ、愛してんだ、
you お前のことを
規範文法的な「日本語と英語は語順が違う」という思い込み石頭から自由になってください。さもないと、肝心な情報の順を狂わせて読者を船酔いさせることになります。
②陸の火山、海の火山
いくらクイズ番組式にしても、これではへんです。
John ジョンたらさ
gave くれたんだ
his bike 彼の自転車を
to his sister..彼の妹に
カレカレうるさいです。
言語は山のようだと思います。陸上に山脈をなしている山もあれば海面からちょこちょこ顔を出して群島をなしている山もあります。英語をはじめ西洋言語は山脈のようで、日本語は群島のようだと思うことがあります。日本語のほうが潜在的な部分が多いのです。ただ、潜在しているのであって「ない」のではありません。
だって…朝、娘さんが出かけに忘れ物に気づいて、お母さんに「ハンカチとってー!」と言ったら娘さんのハンカチが出てくるでしょう?「誰の?」とお母さんが訊いたり、お父さんのハンカチが出てきたりはしません。
外国語で顕在しているからといってぜんぶ顕在させたら、日本語としてはちょっと変になるわけです。
むろん、そうした差異を承知のうえで、新しい日本語を創るつもりで訳されるならご自由です。ただ、気づいていない縛りから自由になっていただけたらさいわいです。
近々、「通常業務に加え、通訳・翻訳もちゃんとできるスタッフになるためのオンライン講座」(仮題)はじめます。それにしてもひどいタイトル。もっといい名前ないでしょうか?
持続可能な医療・農業・教育のための通訳者 冠木友紀子プロフィール