ボランティア通訳さん、日本語の連語に気をつけて
外国語ができることときちんと通訳できることは別のことです。
それでも、外国語、英語ができる人に通訳を頼む人は後を絶ちません。本来、断っていただきたいところです。
先日も「グループのなかの英語ができる人が通訳をしたけれど、なんだかわかりにくかった。訳し直してほしい」という相談を受けました。
録音を聞いてみると…明らかになったのは、このアマチュア通訳さんの聴く力と記憶する力の不足です。無理もありません。聴く力と訳出するまで記憶する力は通訳訓練で鍛えるのですから。
それらの力が不足すると、聴きとれたもの、覚えていられた単語をよすがに自分の憶測で埋めたくなるのです。
この録音、講師がdistort the memoryと言った場面がありました。
このフレーズではmemoryのほうがおなじみの単語だったのでしょう。アマチュア通訳さんは「記憶」と迷いなく訳しました。ところが、そのあと「薄れる」と続けたのです。
これは日本語の連語、コロケーション=語の組み合わせ、に引っ張られたのでしょう。東日本大震災以降、「記憶の風化」「記憶が薄れる」というフレーズがあちこちで聞かれました。
でも、この録音で講師は「記憶をゆがめる、捻じ曲げる」と言っています。この講演自体、ある集団が政治的な意図をもって社会の記憶をゆがめることに警告を発したい、という思いを土台としています。
それを「薄れる」としてしまっては、ニュアンスが違います。
複数個所でこのような日本語連語での埋め合わせをしていると、つじつまが合わなくなります。
聞いているひとは、わかろうとして聴きますから、つじつま合わせに苦労することになり…「わかりにくかった」「疲れた」となるのです。
通訳者の仕事は、話し手の心の中の風景を聴き手の心の中になるべく歪めず(!)に再現すること。前もってきちんと修行していれば、少しも疲れる仕事ではありません。