オバマ大統領広島演説③-従来型英文和訳の限界は

さて、今日もイメージの順をなるべく守るチャレンジです。

(冠木同通)

The World War that reached its brutal end in Hiroshima and Nagasaki was fought among the wealthiest and most powerful of nations. Their civilizations had given the world great cities and magnificent art. Their thinkers had advanced ideas of justice and harmony and truth, and yet the war grew out of the same base instinct for domination or conquest that had caused conflicts among the simplest tribes, an old pattern amplified by new capabilities and without new constraints.

In the span of a few years some 60 million people would die: men, women, children — no different than us, shot, beaten, marched, bombed, jailed, starved, gassed to death.

 

中高生にイメージの順を守る大切さを話すと「ひっくり返し式でないと先生がテストで〇をくれません。」とこぼします。

気の毒なことに。

語どうしの関係を確かめるなら「この文の主語とその述語を指摘しなさい」などほかの訊き方があるでしょうに。

国民全員がひとつの外国語を必修で何年も履修するという制度自体、ハードとして不自然、非効率的なのですから、せめてソフト的にシンプルで奥深い言葉の世界に心躍る工夫をしてほしいものです。

だいたいね、めんどくさいものはいんちきか半端なんですよ。

たとえば第1文、こんな訳を見かけました。
「広島と長崎で残虐に終わった世界大戦は、もっとも富み、また力強い国々によって戦われました。」

昔式としては〇。間違いではない。でも大してよくもない。単語だけ並べ替えているから。

常に肝に銘じてください。言葉の向ことこちらには人がいる。人は心で生きている。

ことに演説は、集った人々に言葉で訴え、心をあるひとつの方向にそろえるワザ。
そのためには聞いた人の心の中に色つきの映像が立ちのぼらねばなりません。

語順入れ替えは紙芝居の順番入れ替えになりかねません。できあがった日本語で大意は「頭で」理解できても、「心に色つき映像」が浮かびにくくなります。学校時代の英語が嫌いという方たちはまっとうなセンスの持ち主のことがたびたびです。英語がいやだったのではなくて、日本語の変死体に辟易していたのではありませんか?

そうそう、baseを基本的なんて訳してはこれも野暮です。ものごとの土台として不可欠な「基本」なら前向きなニュアンス。ここでは変でしょう。裕福な大国がやらかしたことですよ。辞書もよく読めば「低劣な」「低次の」とあります。「低い」のニュアンスが大切です。

通訳道場★横浜CATS(まもなく更新!) 

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